田中もえ。

田中もえなんですよ。
拍手お礼にしようと思ったけど載せちゃう。
まだまだなんですが、書けたものはどんどん出して行こう。

とりあえず、今ゆっくりしてる場所がそろそろ閉店なんで！（逃）

 

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じわりと伝う汗を拭うことも出来なかった。
炎天下の中でただじっと立ち尽くす。
声を発することも、少しでも揺れ動くことも許されない。
降り注ぐ陽射しと上昇していく気温の中、黒い長ランは熱を逃がすという行為を知らない。

-　そこに吹く風　-

心から自分達に救いを求める人たちへ送るエールは、失敗は許されないのだ。
今からその為の心の鍛錬をする、とリーダーの一本木に言われ、この小高い丘へと連れてこられた。
そこには青々と緑を生い茂らせている大木が一本。
その木陰には一本木と彼の両脇を固める二人が自分を黙って見つめている。
被っている学帽と額に巻いた鉢巻がある分、まだ幸いなのかもしれない。
この刺すような陽射しから、目元を少しだけ守ってくれる。
伝い落ちて目に入りそうになる汗から、目を守ってくれる。
でも何も言葉を発せない。
学帽から落とされている影のおかげで、きっと一本木達からは見えないだろうと、そっと瞳を閉じてみる。
静かな中、聞こえてくるのは遠くの街の喧騒と、蝉の声。
どこからともなく、子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。
あぁ、そういえば転校する女の子へ気持ちを伝えたいという小学生の為に演じたな。なんて記憶が鮮明に蘇る。
あの時は夢中だった。ただ彼の為にだけエールを送った。
ゆっくりと瞳を開けて、眼鏡の向こうに見える一本木達を再び見るが微動だにしていない。
その空気はこの暑さが判らないのではないかと錯覚を起こす。
でもあの人達はまだ木蔭にいるだけ良いと思う。
自分は、降り注ぐ陽射しの下で汗を拭うことも出来ず、もうずっとこのままだ。

――　あっちぃー…

振り仰ぐことも許されず、立ち尽くす。
ただただ時間が過ぎているのだろうけど、どの位の速さで進んでいるかも判らない。
視線をそっと落とした瞬間、ちょっとだけ地面が揺らいだ気がした。

――　やべ

自分の中の危険信号が点滅を始める。
きっともう立っていられない、倒れる、そう思った時だった。
「よし、田中。休憩だ」
一本木の声が通り渡った。
その声に緊張が解け、大きく息を吐き出すと同時に空を仰ぎ見る。
眩しい光が瞼を透過して、そして、少し微温い風が頬を擦っていった。
「田中、日陰に来いホラ」
「あ、ざっす」
ぐいっと一本木に腕を取られ、日陰へと入れられその場へ座らされる。
されるがままに腰を下ろすと、一本木は黙ってポケットからハンカチを取り出し、自分の額の汗を拭ってくれる。
「すいませ…」
「斉藤、何分だ」
自分の礼など聞きもせず、片翼の斉藤へと時間を聞く。
斉藤は黙って腕時計を確認すると時間を告げる。
「30分か……上等だ。良く頑張ったな」
学帽の上から、頭を優しく撫でられる。
その行為に驚いて思わず一本木の顔を見上げると、不器用そうに一本木が笑う。
「この暑さでこれだけの時間立っていられるなら、長丁場でも行けるな」
「え…」
「まだこれから覚えてもらわなくちゃいけない型も多いが、お前なら平気だろう」
言いながら再び自分の頭を軽く叩くと、両翼の二人を呼び、今度は一本木達が日光の下へと出た。
「田中！そこでこれからやる型を見ていろ！行くぜぇ、参、弐、壱、それぃ！」
良く通る声で、掛け声を掛けると、演舞が始まる。
暑さなどものともしないような、しなやかで、でも熱いエールを吐き出しながら踊っていく。
それは、きっとこれから覚えなくてはいけない演舞。
心地良く頬を擦る風に乗って、一本木達のことを見つめながら、先ほどの一本木の笑顔を思い出した。

滅多に見ることの出来ない彼の笑顔に、気温以上に体温が上がるのを感じた。
それが何を意味するかとか、そんなのはまだ知らない。