一本木と田中

思いついたので時期ネタを慌てて上げておく。
今日上げないと意味ないじゃんか、とか思ったから取り急ぎ。

取り急ぎ、なので実はチェックしてません（笑）
そんな自分は負け組。帰りに携帯で読み直すんだぜ。
表現が可笑しいところがあるかもしれない。フハハ。

とりあえず会社でます。


興味ある方は「つづき」からどうぞ。

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　日本に最近取り入れられただろう西洋の祭り事。
　それを言い出すとは思ってもいなかった。

－お菓子をくれても、悪戯するぞ－

　今日は、十月三十一日。
　団室で一人雑誌を読んでいると、今まで用事で出掛けていた田中が帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「おぅ、お疲れ」
　それを当然のように迎える声を掛けると、珍しく田中の方から自分の傍へとやってきた。
「一本木先輩、今日って何の日か知ってますか？」
「今日？　あー、月末だろ？　帰りにカレンダー捲らないと…」
「違いますよ！　そうじゃなくて」
　何だか今にも地団駄でも踏みそうな田中の言い方が珍しい。
　だが、そんな事言われても俺は普通に『十月終わり』という感覚しかなかった。
　田中の顔を見て眉を顰め、視線をカレンダーに泳がせる。
　やはりただの月末じゃねぇか…と思った時だった。
「…ハロウィン？」
　目に入ってきた今日の日付に印刷されている行事をそのまま読み上げる。
　すると、田中の表情が明るくなったような気がした。
「へぇ！どんな日か知ってるんですか？」
　こんな嬉しそうな田中の雰囲気が珍しい。
　だが『ハロウィン』という単語に、すぐにピンとは来なかった。
　でもここで知らないと言ったら、こいつは得意そうなあの顔を浮かべるのか。
　そう思うと咄嗟に口を吐いて出ていた。
「あ、当たり前だろう？　バカにしてんのか？」
　白々しい笑顔を作り、田中を見る。
　すると、どうしたことか田中がしょげた顔をした。
「…ですよね。いや、バカにしてる訳じゃありませんけど」
　その表情が、何だか可愛くて。
　自分の言った事を撤回しそうになった瞬間、あの有名な台詞を思い出した。

『トリック　オア　トリート』

　子供が大人に向けて言う、子供にとっては魔法の言葉。
　それを田中に言って手を出してみようか、と思った時にふと悪戯心が働いた。
「田中。お前、もちろんあの有名な言葉を知ってるよな？」
「…え、あれですか？　トリッ…」
「おっと」
　田中が言い掛けた所でその言葉を遮ると、それを不思議そうに見た田中に対して何気なく聞いてみた。
「お前、俺がその台詞を言ったら、もちろん『イイ返事』が返せるよな？」
「当たり前ですよ」
　お勉強が出来るこいつは、すぐに鼻に掛けたような言い方をする。
　この得意そうな顔を、少し崩してやろう。
　俺は田中に当たり前だよなと言わんばかりにニヤリと笑い掛ける。
　しかしそれを表に出すことはせず、知らん顔してこの台詞を言ってやった。
「田中ぁ、『トリック　オア　トリック』」
「決まってんじゃないですか、トリック……え？」
　当たり前の様に返そうとした田中の表情がすぐに曇る。
　それはちょっとした言葉の遊び。
　意地の悪い笑みを浮かべて田中を見ると、田中はものすごい分かりやすく混乱していた。
「ちょっ、先輩、今なんて…？」
「ん？優等生の田中君はヒアリングが苦手なのか？」
「…てっ、それ台詞、変じゃ…ないです…か」
　ニヤニヤと笑いながら言うと、田中が焦って反論してくる。
　何となく言葉が詰まっているのは、俺が田中に近づいたせい。
　かなり近距離まで顔を近づけると田中はいつもすぐに下を向き、口篭もるような言い方になる。
「変じゃねぇだろ。どっちか選べって台詞だし？」
　したり顔で瞳を覗きこむと、眼鏡の奥から悔しそうな色を浮かべて睨んでくる。
　そうそう、この顔がすげぇソソる。
　田中の顎に手を添えて、軽く持ち上げるように上を向かせると、視線を絡ませた。
「ちょっ、せ…」
「ホラ、返事は？」
「―――っっ」
　返す言葉が見つからないよう田中は、顔を紅潮させ睨んでくる。
　それを堪能すると、俺は小さく息を吐くように笑った。
「時間切れ」
「い、一本木先ぱ…！」
　田中が焦って自分の名を呼び切る前に唇を塞ぐ。
　そして口内に侵入して弄ぶように簡単に舌を絡め取る。
　目を薄らと開けて見ると、田中は少しずつ快楽に侵されてくのか、切なそうな表情を浮かべていく。
　こちらの動きに一生懸命答えようと、ぎこちないながらも舌を絡ませてくる。
　時折洩れていく苦しそうな息に耳を傾ければ、それは次第に甘い音に変わっていった。
「…ん、ふ………は、ぁ」
　唇を離すと、まだ答えようとした舌が甘い吐息と共に吐き出される。
　その表情に思わず口の端を上げ耳元で囁いた。
「随分と好い表情出来るようになったじゃねぇか」
「ち、違……ぅ…んっ」
　顔を真っ赤に染め上げた田中に追討ちを掛けるように、今度は耳朶を甘噛みする。
　すると、ひくんと身体を小さく震わせた。
「や…先ぱ……止め…」
　涙声で懇願してくる田中の声など聞こえないかのように、そのまま耳を嬲るように舐め上げる。
　こうすると、驚くほど敏感に身体を大きく揺らし、嬌声を上げ始めるのだ。
　しかし、今日はただ身体を揺らすだけ。
　いつもと違う様子に、顔を離して田中の表情を見ると、唇をきつく噛み締めて耐えているようだった。
　呆れたように溜息を吐き、優しく頭を撫でるとやっと力を抜く。
　その唇には、薄らと血が滲んでいた。
「ばか。何、我慢してんだよ。…血ぃ滲んでんじゃねぇか」
　拭うように親指を田中の口許へ当ててやると、優しく唇を撫でる。
　そして優しく抱き締めて、耳元で囁いた。
「ワリィ。もう何もしねぇよ」
　その言葉に、やっと田中が俺の背中に手を回すと、きつく手を握り締めた。
　まだその手が俄かに震えていて、あやすように背中を軽く叩いた。

　色んなことを教えてきたけど、思っている以上にまだ子供だな。
　
　そう思い、田中の震えが治まるまでただ抱き締めていた。